公務員との冷静な議論が許可上重要な意味を持つ場合があります
私は、埼玉県庁第二庁舎3階の建設管理課へよく出かけます。
それは、建設業許可申請書や事業年度終了報告書、各種変更届の提出のため、また新規にご依頼をいただいたお客様の申請情報の閲覧のため、さらに、一筋縄ではいかない場合に県の担当者との打ち合わせのためなどです。
たまに、建設業者の方や申請を代行・代理にきた方が、建設管理課の窓口で担当の公務員をつかまえて顔を真っ赤にして文句を言っているの光景を目にすることがあります。
申請者の方は自分の主張を認めて欲しいがために、冷静さを欠いてあまりに大きな声で自論を展開しているので、私の耳には待合席で座っているだけで、まる聞こえになってしまうのですが、大抵はそのような申請人や申請代理人の主張は通りません。
それは、建設業許可の制度は原則的に建設業法等の法令にのっとった運用がなされているのであり、申請者の主張にそれなりの事情があったとしても法令にそった解釈が難しいのであれば、公務員は申請者の主張をむやみに受け入れるわけにはいかないからです。
公務員の職責ということを考えれば当然の対応ですが、申請者サイドからしてみれば、特段の事情があるのだから、事情を考慮した対応をしてほしいという気持ちになり、つい感情的になってしまうのも無理もないという場合もあります。
たとえば、経営業務管理責任者であった方が急にお亡くなりになり、代わりの方がいないために許可を失効せざるをえないというような場合です。
許可がなければ仕事をまわしてもらえないという会社にとって、突然の許可の失効はとても受け入れられるものではありません。
しかし、そうかといって公務員は感情的に判断をするわけにはいかないのです。
それで、たまに建設管理課で衝突がおきるのです。
さて、ここで、建設業許可の制度が法令にのっとった運用がなされているとはいっても、運用の場面におけるすべての事例について事細かに法令が規定しているわけではありません。
その規定されていない部分は、「行政裁量」で運用されます。
そのため、同じ建設業法という法律による建設業許可という制度であっても、各自治体によって微妙に運用が違うケース、いうなれば、ローカル・ルールがあるわけです。
ですから、例えば、埼玉県ではある裏付確認書類で許可が通ったとしても、東京都では通らないとか、その逆のケースもあったりします。
これが何を意味するか、その業務を専門に扱っている経験豊富な行政書士ならよく理解しているはずです。
すなわち、許可を通すことを目的とした実務面で、公務員との交渉の余地が残されているのです。
たとえば、よくある事例を掲げると、建設業許可要件である専任技術者として認められるための裏付け書類としては、実務経験のみで証明する場合は、取得しようとする業種について10年以上の実務経験を証明できる1)工事請負契約書 2)注文書+請書のセット 3)請求書+入金確認書類を、理論上は120ヶ月分期間重複がないように揃えて、担当の公務員に示すことができなければ通らないと考えられます。
120ヶ月分の実務経験を確認するなら、1ヶ月に1件裏付を用意するのなら、120件分の工事実績を持参しなければなりません。
しかし、実際問題、10年前の書類がすべて会社に保存されている可能性は、あまり高くはありません。
そこで、東京都などは3か月に1件、年間で4件程度を10年分示せればよいという運用もなされていましたし、埼玉県の場合でも何がなんでも120件なければダメということでもありませんでした。
これは、各自治体のローカル・ルールの部分ですので、過去にそのような申請がその自治体で通ったとしても、現在のルールは変更になっているかもしれませんので、微妙な場合は都度、公務員に「ここまでならこういった形で出せるが、これでよいか?」との事前交渉を行うことが重要です。
窓口の公務員は「話のわからない人たち」ではありません。
公務員の職責上、裁量ではなんともできない部分は断固としてノーというしかないという立場に置かれているのであって、交渉に臨む場合は、自己の主張を認めてもらえるまで何が何でもゴリ押しするという態度ではなく、交渉の相手である公務員の立場や法令に対する理解はありますよ、という気持ちをもって接することが、有益な議論の前提となります。
そして、日頃からそういう態度で窓口の公務員と交渉を通じて人間関係を構築しておくことが重要であることは敢えて申し上げるまでもありません。
建設業許可申請を主たる業務として営んで10年以上、数多く経験してきたことですが、これからも窓口の公務員との交渉も一歩下がった冷静な姿勢で臨み、建設的な議論を交わす努力は最大限していく覚悟です。
貴社の申請でその経験が活かせたらとても嬉しいですね。