建設業許可メール相談事例
一括下請負(丸投げ)とは?
ご質問
当社は、建設業の許可はないのですが、建築一式工事における軽微な工事については請負可能と聞いています。@1件の請負代金が1500万円未満の工事(消費税を含んだ金額)
A請負代金の額に関わらず延べ面積が150u未満の木造住宅工事(主要部分が 木造で、延べ面積の1/2以上を居住の用に供すること)
また、建築士法では階数≦2、かつ延べ面積≦100uの場合、建築物の設計、工事管理OKとあります。
ここで、仮に延べ面積130uの階数2の木造住宅をA社が元請けで受けて、施工は全て下請けにお願いすることは法律上可能でしょうか?
ちなみに、建築関係の資格はもっていません。
当事務所対応
今回のご相談の例では、貴社が一棟の住宅建設等一式工事(原則として元請)として請け負うものであって、軽微な工事に該当する場合ですね。この点については、建設業法施行令第1条の2、すなわち、 @1件の請負代金が1500万円未満の工事(消費税を含んだ金額) A請負代金の額に関わらず延べ面積が150u未満の木造住宅工事(主要部分が木造で、延べ面積の1/2以上を居住の用に供すること) から、貴社が請け負い、施工することは問題はないと思われます。すでに、ご指摘のとおりです。
ここで疑問が生じます。
請け負うことは法律上問題ないといっているのに、施工させるには、そういった専門の技術を要した人がいなくてもよいのか?ということです。
●施工技術の確保についての注意
ところで、建設業法第25条の25では、「建設業者は、施工技術の確保に努めなければならない」とあります。
これは、訓示規定であって、建設業者が本条の努力をしなかったからといって直ちに罰則等の適用があるわけではありませんが、適正な請負契約の締結のとともに、施工技術の確保は、建設業者として、もっとも重視すべきものです。
そこで、建設業の許可業者には、営業所ごとに主任技術者や監理技術者の設置が義務付けられているわけです。
この規定が許可の適用対象外の軽微な建設工事にまで適用があるのか?ということが問題となりますが、建設工事の施工は、その工事現場における技術上の管理をつかさどる主任技術者を欠いて施工することは不可能であり、法第7条第2号により技術者の資格の最低限を定めていることを考えあわせると、軽微な建設工事の施工についても本条の適用があるものと解するのが妥当です。
そこで、貴社はこの元請工事を自ら施工するか、施工することが困難であれば、他の技術力のある建設業者に施工させなければならないことになりますので、すべて下請けに出す場合でも、そこをよく確認する必要があります。
●すべて下請けに出す場合の注意点
さて、一番大きな問題は、貴社が元請負人となって「全て下請け」に出すという点です。これは俗に「丸投げ」といいますよね。建設業法では、法第22条において「一括下請負の禁止」を規定しています。
次の条文を見てください。
◆法第22条第1項 建設業者は、その請け負った建設工事を、如何なる方法をもってするを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。
◆法第22条第2項 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負った建設工事を一括して請け負ってはならない。
このように、元請人にも下請負人にも、一括下請負の禁止を課しているのです。 この条文の主眼とするところは、次のとおりです。
請負人は、その本来の性格からみれば建設工事を完成しさえすればよいのであって、その手段や実際の工事の施工については自由に行いうると考えられます。
しかし、そもそも注文者が建設業者を選択する重要な基準は、その工事施工の全般にわたって適正な施工の信頼性ということはいうまでもありません。
そのために、元請人が自ら請け負った工事をそのまま他の建設業者に一括して請け負わせる行為は、注文者の信頼に反するものとなり、当該工事の施工責任の所在を不明瞭にし、工事の適正な施工を妨げるものとなります。
また、こういった場合は通常、紹介料などの名目で中間マージンをとる場合が多く、請負代金の割増、工事の質の低下を招くことが予想されます。
さらに、このような一括下請負を容認することは、ブローカー的な不良建設業者を排出することにもつながり、建設業の健全な発展を阻害する恐れがあります。
そこで、ここで釘をさしているわけです。
「それじゃ、元請人が請け負った工事の主要な部分は下請けにまかせ、自分は、主要でない一部分を施工する場合は、この丸投げに該当しないのか?」 とか、さらに、 「元請負人が一切利潤を得なければ工事そのものを一括して請け負わせる行為は、利益を得ていないのだから、問題ないのか?」 という疑問が出てきます。
しかし、ここは、法解釈の問題でこれらの場合でも「丸投げ」に該当しますので、注意が必要です。
注文者の信義に反するような行為は、丸投げとみなされるということです。
これは建設業法に限ったことではありません。民法などでも当然、信義誠実の原則という視点は貫かれています。
さあ、困りました。それでは貴社は自ら技術者を雇って施工しない限り、お客様から請け負うことができないのか?ということになりますね。
ご安心ください。法は必ずといってよいほど例外規定を置いています。
次の条文をご覧ください。
法第22条第3項 前2項の規定は、元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には適用しない。
この規定は、一括下請負禁止の例外を定めたものです。
この例外規定がある目的は、次のとおりです。 一括下請負に該当する場合であっても、請負代金の額が適正に定められた元請人と下請負人の間において、「不当な中間搾取」がなく、下請契約の内容も適正であり、工事の適正な施工が保証されている場合は、これを禁止する実益はありません。
そこで、元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には、前2項を適用しないこととしたのです。
では、この発注者の承諾とはどんなことか、もう少し詳しく見ていきましょう。
数次にわたって下請けがなされる場合でも、最初の注文者である発注者の承諾は得なければならないので、注意が必要です。そして、この承諾は「あからじめ書面で」受けなければなりません。
数次にわたる場合でも、承諾を受ける人は、最初の注文者たる発注者から請け負った元請負人です。 そして、この書面を受けておくことは、実は元請負人にとっても有利です。
なぜなら、発注者には「下請負人の変更請求権」が法第23条で定められているのですが、あらかじめ注文者の書面による承諾を得て選定した下請負人については正当な理由がなければ変更請求ができないからです。
さて、ここまでで法律上の問題点と対処法はご理解いただけたことと思います。 貴社が発注者から請け負った工事をすべて下請けに出す場合は、貴社が発注者から承諾書をあらかじめ得ておかなければならないということです。
建築士法について、少々知識の整理が必要なようです。
まず、用語の定義なのですが、これは建築士法に明記されています。
建築士法第2条第5項において、 「設計」とは、その者の責任において設計図書を作成すること 同法同条第6項において、 「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することとあります。
そして、同法第3条において、各資格士の業務範囲について明記しています。
ところで、この第3条だけお読みになっても、非常にわかりづらいところです。
ご質問のケースは、貴社が「設計」や「工事監理」には一切関わらないということでしょうか?そういうお話でしたら、下請けされる会社が木造建築士以上の資格者を有しているか否かということが建築士法上の問題になるだけです。
貴社は、単に工事を横流しするだけで、建設業法上の許可も必要なく、発注者から下請けにする旨の承諾書をとればよいということになります。承諾書には、貴社が「設計」や「工事監理」に当たらないこと並びに、一切の施工責任の所在を明記すべきでしょう。
ところが、貴社が「設計」や「工事監理」に関わるということであれば、建築士法の制限を受けることになります。 建設業法上の制限と、建築士法上の制限は分けて考えるということです。 建設業法上、軽微な工事を請け負うことは問題ありませんが、建築士法上は資格者の業務範囲という制限を受けるということです。